無機層状結晶を液晶にする
中戸晃之(九州工業大学)

 私たちのグループでは、層状結晶を剥離させてできるナノシートのコロイド分散体の研究を行っています。ある種の無機層状結晶は、溶媒中で、層間が無限に膨潤して、結晶層一枚一枚が均一に分散したコロイドになります。この現象を剥離といいます。剥離した結晶層は、厚さ1 nm程度の無機超薄層で、しばしば「ナノシート」と呼ばれます。

 私たちは最近、層状ニオブ・チタン酸塩と呼ばれる一群の層状結晶を研究しています。その過程で、これらの物質を剥離させて得られるナノシートのコロイド分散体が、液晶を形成することを発見しました。液晶とは、結晶に特有の構造規則性と液体に特徴的な流動性とをあわせもつ物質であり、ナノシートのコロイドが液晶を形成するとは、溶媒中でシートが互いに配向秩序をもちながら分散することを意味します。このイメージを図1に示します。また、実際の液晶の偏光顕微鏡写真を図2に示します。これは、層状ニオブ酸塩K4Nb6O17を剥離させて調製したナノシート分散体の液晶です。液晶に特有の光学組織がはっきりと認められます。

図2. 層状ニオブ酸塩K4Nb6O17から得られるナノシート分散体液晶の偏光顕微鏡写真
図1. 層状結晶の剥離による液晶相形成のイメージ

 ナノシート分散体から液晶を作った研究例はほとんどありません。しかし、層状結晶から液晶を作るとは、結晶という剛直な素材から生体系のような柔軟な構造体を作ることを意味します。そのような構造体では、秩序と自由度の協調による物性の発現が予想されます。したがって、無機層状結晶の新たな利用法として期待されます。いずれ、生体組織のような材料を無機層状結晶から作れるも知れません。


文献

1. N. Miyamoto and T. Nakato, "Liquid Crystalline Nature of K4Nb6O17 Nanosheet Sols and Their Macroscopic Alignment", Adv. Mater., 2002, 14, 1267-1270.

2. "Stable Liquid Crystalline Phases of Colloidally Dispersed Exfoliated Layered Niobates", Chem. Commun., 2004, 78-79.

3. Liquid Crystalline Nanosheet Colloids with Controlled Particle Size Obtained by Exfoliating Single Crystal of Layered Niobate K4Nb6O17", J. Phys. Chem. B, 2004, 108, 6152-6159.

4. "Mesophase of Colloidally Dispersed Nanosheets Prepared by Exfoliation of Layered Titanate and Niobate", Thin Solid Films, 2006, 495, 24-28.

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