一次元ロッド状ポリシルセスキオキサンの創製とキラリティーの導入
金子芳郎(鹿児島大学)

 我々のグループでは、次元制御された新たな無機材料の創製と、この材料を用いた有機-無機ハイブリッド材料について研究を行っています。

 一次元ロッド構造をもつイモゴライトやカーボンナノチューブは代表的な低次元無機材料として知られており、有機材料との複合化においても有用な材料として期待されていますが、これらの一次元無機材料は、通常分散性に問題があるものが多く用途は限られています。

 これまでに我々のグループでは、アミノ基含有オルガノトリアルコキシシラン(シランカップリング剤の一種)の強酸水溶液中でのゾル-ゲル反応を行うことで、一次元ロッド状の酸化ケイ素系材料(ポリシルセスキオキサン)が得られることを見出してきました(図1a)1)4)。このロッド状ポリシルセスキオキサンは、数nm間隔でヘキサゴナル相に積層し(ナノオーダーで規則的に並ぶ)(図2a)、さらにマイクロオーダーでの凝集構造(図2b)や実際の材料の構造(図2c)においても異方性を有することが確認されています。一方、この材料はSi-O結合からなる8員環構造がつながったラダー構造(梯子構造)を形成し、規則的な分子構造を有することも明らかにしてきました。すなわち、このラダー構造がねじれたコンフォメーションを有することでロッド構造が形成されたと推察しています。また、このポリシルセスキオキサンは側鎖にアンモニウムカチオンを有するために水溶性を示し、この水溶液をガラス基板上で乾燥することで透明なフィルムを作成することが可能です。以上のように、本材料は分子構造からナノ構造や凝集構造まで階層的に構造が制御された可溶性のポリシルセスキオキサンであり、ゾル-ゲル法によって得られる新しいタイプのSi-Oベース材料と言えます。

 一方、前述の反応系に対してキラル基含有オルガノトリアルコキシシランを加えてゾル-ゲル反応を行うことで、キラルなコンフォメーションが形成されることも明らかにしてきました(図1b)5)。この材料は、アキラルなイオン性有機色素と水中で混合することで、この色素にキラリティーを誘起することが可能となり、円偏光発光材料への発展が期待できます。

図2 生成されたポリシルセスキオキサンの(a)TEM像、(b)SEM像、および(c)写真
図1 アミノ基含有オルガノトリアルコキシシランの酸性条件下でのゾル-ゲル反応による規則構造を有するポリシルセスキオキサンの創製


1) Y. Kaneko, N. Iyi, K. Kurashima, T. Matsumoto, T. Fujita, and K. Kitamura, Chem. Mater. 2004, 16, 3417. 2) Y. Kaneko, N. Iyi, T. Matsumoto, and K. Kitamura, Polymer 2005, 46, 1828. 3) Y. Kaneko and N. Iyi, Z. Kristallogr. 2007, 222, 656. 4) 金子芳郎, 井伊伸夫, 高分子論文集, 2010, 67, 280. 5) Y. Kaneko and N. Iyi, J. Mater. Chem., 2009, 19, 7106.

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